2012.10.10
東京

佐藤悟志氏への取材

第四部 本二冊の紹介

★ アヤーン・ヒルシ・アリ『もう、服従しない イスラムに背いて、私は人生を自分の手に取り戻した』

★ 虚淵玄(うろぶち げん)『Fate/Zero(フェイト/ゼロ)』



 





のら猫の手  ひと休みの後、また始めさせていただきます。
 さっきは、脱会者よりごあいさつっていうふうに企画を立ててたんですけど、急に変更しまして、佐藤悟志さんが最近面白いと思った本を紹介していただくことになりました。2冊あります。どうぞよろしくお願いいたします。
佐藤  脱会者の人々に対して、この本を読んで勉強すると、さらに参考になりますよという。
のら猫の手  つながりましたね。
佐藤  はい。この本は、最近の私の種本というか、重要だと思っていて、人々に、お薦めしまくっている本ですけれども。カメラさんは向いてますか。
のら猫の手  こっちにも写してください。ありがとうございます。



アヤーン・ヒルシ・アリ『もう、服従しない イスラムに背いて、私は人生を自分の手に取り戻した』



佐藤  『もう、服従しない』、アヤーン・ヒルシ・アリ著、エクスナレッジ社発行の、伝記なのかな、半生記、自伝なんですけれども、このアヤーンさんっていう人が、彼女はアフリカのどこだか、エチオピアだか、その辺で生まれて。
のら猫の手  コーヒーで有名なとこですか。アベベもエチオピアやったかな。
佐藤  たぶんあの辺だと思うんだけれども、その辺は正確じゃないですが、とにかくアフリカのイスラム教徒の家に生まれたんだけど、いろんな所の難民として転々とさまよい、その後オランダに難民として亡命して、オランダで居住するようになった。
のら猫の手  オランダの国は、確かヨーロッパの白人の国ですよね。
佐藤  そうなんだけれども、そこで生活して、大学に行くうちに、いろんな才能なり、知識などを生かして生活することができるようになって、どこだかの与党のシンクタンクの研究員かなんかになった後で、野党のキリスト教系の右派かなんかの議員になって。
のら猫の手  イスラム教からキリスト教ですか。
佐藤  そうなんです。そこがまた重要なところで、彼女は結局最終的に議員になるんだけれども。
のら猫の手  白人の国で黒人が議員になったんですね。
佐藤  そう。イスラム教徒から命を狙われるようになって。
のら猫の手  なんで狙われるんですか。
佐藤  つまり、暗殺されたほうの人が居るんだけど、ヴァン・ゴッホさんっていう、なんとかゴッホさんっていう、絵描きの有名なゴッホさん、居るじゃないですか。あの人の孫で、オランダで映画監督をやっていた男の人が居て、その人と組んで、イスラム教がいかに女性を抑圧しているかっていう、人権侵害を告発する映画をつくったんですよ。『服従』だったかな、タイトルの映画で、それをつくったがために、イスラム原理主義者だかに殺人予告をされてしまい、結局その監督さんのほうは殺されてしまうんですよね、オランダで。 テオ・ファン・ゴッホ
Theo van Gogh
1957- 2004
曾祖父は画家フィンセント・ファン・ゴッホの弟テオドルス(テオ)・ファン・ゴッホであった。
オランダ出身の映画監督・テレビプロデューサー・著述家・俳優である。
アヤーン・ヒルシ・アリの脚本を元に作られた短編映画 "Submission" は、4人の虐待されるムスリム女性を描き、イスラム社会における女性への暴力を扱っている。タイトルの "Submission" とは "Islam" の英語訳である。
テオは2004年にモロッコ系の青年、モハンマド・ボウイェリによって殺害された。
WIKIPEDIA


YOUTUEで検索して見つけた動画
「Submission (Part 1)
Written By Ayaan Hirsi
& Directed By Theo van Gogh」
http://youtu.be/6rS8FJyX3gs
のら猫の手
 ヴァン・ゴッホのお孫さんが?
佐藤
 そう。有名な話なんだけど。この人もそのときは国会議員だったんだけど、オランダ国内を転々と逃げ回って、アメリカにも逃げたりしてっていうような経緯があって、今はアメリカだか、オランダだかに潜伏生活をしているんだけれども。
のら猫の手
 いまだ潜伏生活ですか。
佐藤

 そうだね。結局なぜそういうふうになったかっていうと、つまりこの人は女性だったんだけれども、何度か結婚したことあるんだけれども、例えば旦那が女房に暴力を振るうみたいな暴力とか、あるいは有名な、いわゆる女性器切除っていうんですか、子どものうちから女性の性器を切り取ってしまうみたいな、そういう風習があったりするわけじゃないですか。そういう体験をして、その上でオランダに移住して、西側の自由で人権を尊重される価値観とかに触れて、それの有意性を信じるようになり、最終的にはイスラム教を捨てて、むしろイスラム教による女性や子どもに対する人権侵害とか、暴力正当化に対して、これを批判するようになるわけですよ。告発するようになって、しかもそれをコーランとか、イスラム教の本質的なものとして糾弾するようになっていくんですよね。それで、対立するようになるんだけど、ただ、彼女の主張というか、暴露が、非常に面白いっていうか、一面では深刻ではあるだけども、まず、第一に、いわゆる女性器切除っていうのはご存知ですか。
のら猫の手  知ってます。フェミニズムがよく取り上げてます。
佐藤  どの辺で、はやっている風習だと思う? 地域的に。
のら猫の手
 アフリカとか、イスラム教徒の所で。
佐藤
 だと思うでしょう。今ヨーロッパで、はやってるんですよ。
のら猫の手
 ヨーロッパのどういう所で?
佐藤
 ヨーロッパの自宅の台所で。
のら猫の手
 待って。ヨーロッパでもいろんな国、あるじゃないですか。

佐藤
 オランダとか、要するにイスラム難民が大量に行って居住するような地域で。
のら猫の手
 だから、ヨーロッパでも白人じゃなくて、イスラム教徒の移民が?
佐藤
 そう。そのまま持ち込んでるわけですよ。
のら猫の手
 イスラム教徒の黒人? アフリカ人?
佐藤  そうね。アフリカ難民が多いかね。
のら猫の手
 アフリカ難民っていうか、アフリカの移民とか、そういう人らが、ヨーロッパで、持ち込んで、それが……。
佐藤  そのままやっている。あとは、いわゆる名誉殺人ってあるじゃない?
のら猫の手  それ、知らないです。
佐藤
 これもアラブ圏とか、南アジアとかで、はやっているような、娘とかは自分の父親とかが決めた相手と付き合ったり、結婚しなきゃいけないわけでしょう。それに反して、勝手に付き合ったり、親の許しを得ないで付き合うだとかっていうことに関しては、これは父親の名誉を汚すので、そんな女は殺してしまえっていうことで、よく殺されるんですよ。っていうのが、そういうイスラム圏とか、南アジアとか、そういう家父長制の強い地域で今でも行われてるんだけれども、それが最近欧米でも行われるようになった。これも、要するにイスラム難民とかが持ち込んでるんだけども、最近アメリカとかでは自分の娘と女房をみんな殺して、アメリカだったか、カナダだったか、っていう事件が起きて騒ぎになったりしたじゃないですか。
のら猫の手
 それ、知らないです。
佐藤
 ニュースでやってたけど、そういうことが、要するにアフリカの風習だと思っていたものが、どんどん欧米を侵食し始めているんですよね。侵食をしている、持ち込んでいるのは、いわゆるアフリカ難民で、しかもその人たちのそういう、いってみれば差別的な封建的な価値観のまん延を、オランダ人、オランダ政府、あるいは、ヨーロッパ人が擁護して、支援してしまっているという現実があるんですよ。

のら猫の手  それはオランダならオランダの白人が?
佐藤  そう。白人っていっても、政府とか、行政、市民もそうだけど。
のら猫の手
 他民族の多元文化を尊重しましょうみたいな?
佐藤  そう。そういうやつ。いわゆる多文化主義とか、多文化共生とか、多元文化主義とかっていって、既存の左翼という人たちが持てはやしてしまったがために、そういう差別的な価値観が、オランダとか、ヨーロッパとか、欧米でまん延してるということを、このアヤーンさんが告発して、そんなことではいかん、駄目だということで怒っているわけですよ。
しかも、彼女は、なんで白人がそういうことをしてしまうのかということも分析していて、つまり、ヒトラーとかが居て、ユダヤ人を虐殺したりというような歴史性がヨーロッパにあるんですよね。オランダ人もそれに協力してしまったという歴史があって、それに対して非常に後ろめたいというか、原罪意識というか、というのをオランダ人というのは持っているんだと思う。であるがゆえに、少しでも自分たちが差別者であると思われたくないために、そういうアフリカ難民とか、イスラム難民の価値観を、そのままオランダ人が認めてしまって、受け入れてしまっている。その結果、アフリカ難民がオランダに逃げ込んだ上で、子どもをつくったり、家庭をつくったりするわけでしょう。その家庭で、女や子どもの人権が非常に侵害されたりしているという現実があるんだ。だから、むしろヨーロッパ人は反省すべきというか、考え直すべきだということを、彼女は訴えているんですよね。
例えば難民のイスラム学校とか、モスクとかを、ヨーロッパにつくっちゃうわけですよ、現地に。しかも、それに対してオランダ政府が助成したりするわけね。補助金を出したりするわけ。まさに多元文化主義に基づいて、難民の文化を尊重し、守らなければいかんというような使命感に駆られてお金を出してしまうんだけれども、結局そのイスラム学校とか、モスクだとかで流布される価値観というのは、テキストのコーランに基づいた女性差別的なイデオロギーであったり、子どもに女性器を切除してしまうような暴力的なものであったり、あるいは、それこそ同性愛者は病気だとか、ああいうものは異常だというようなことを触れて回る、イスラム坊主の説教とかが、結局ヨーロッパでヨーロッパ人の支援によってつくられた学校だとかで広められてしまっている。だからそういう助成とか、支援も、補助とかも、やめるべきだというふうにアヤーンさんは主張しているんです。
元イスラム教徒の立場から、いってみれば脱会者ですよ。脱会した上で、自分が元居た価値観の誤りを指摘して、言論活動をしたり、選挙に出たり、映画をつくったりしているゆえに、結局この人が命を狙われるようになってしまってた。非常に危険な目に遭ってるんだけれども、彼女は、もう服従しないのだと宣言して、いまだに戦っているわけですよね。だから、脱会者の人々もこういう本を読んで勉強して、命懸けで戦うというスタンスを身に付けてほしい。

あともう一つ、非常に参考になるんだけども、つまり、彼女は在特会でもあるんだよね。つまり、彼女が主張していることっていうのは、実は在特会の主張にまるっきりかぶるところが多いわけだ。例えば「朝鮮学校をなくせ」とか、「反日教育を許すな」とかいう、つまり、今、日本で朝鮮学校とか、北朝鮮の問題になってるようなことと、まったく同じことを、実はオランダでも起こっているんだってことは、この本を読むとよく分かるんですよね。
つまり、今まで西側とか、日本もそうだけども、自由と民主主義とか、基本的人権に基づいたような西側的な価値観を称揚して、やってきたわけじゃないですか。ところが、それとはまったく相いれないような、個人崇拝とか、人権否定とか、主体思想みたいなもの、あえていえば、そういう異文化が入り込んできたときに、どう対応すべきか。多元文化主義とか、多文化共生の美名の下に、そういうものを許容してしまって、日本社会に根付かせてしまっていいのか、それとも、そうではなくて、むしろ西側的な、こちら側の価値観をきちんと前提に踏まえて、共存していくということをすべきなのかどうかという論争は、実は、日本における在特会だけではなくて、この場合はオランダですけれども、ヨーロッパでも起こっているんですということなわけですよね。だから、在特会問題を考える上でも参考になる、『もう、服従しない』、アヤーン・ヒルシ・アリの著書ですけど、これをぜひ。最近ネットで3冊ぐらい買ったんだけど。

のら猫の手  3冊も? なんで?
佐藤  今古本屋で100円ぐらいで買えるんですよ。送料はかかりますが、ぜひ検索してみて、ネットで古書で買っていただけると、ただ同然で手に入りますので、ぜひ買って勉強していただきたいです。なにかご質問があるんじゃないですか。
のら猫の手  1つ質問してもいいですか。きつい質問なんですけど、黒人が、オランダの白人の国で政治家になるっていうことは、すごい驚きました。
アメリカの場合やったら、アフリカから強制連行してきたんやし、この強制連行はほんとにほんまやから、これほんまにほんまやから、だから、アメリカやったら、そんなもん黒人にも選挙権与えなあかんやんかっていうのは当然やけど、いくらなんでも。
オランダは、難民のなりたてのほやほやの帰化した人が政治家なれるんやなとか思って、ちょっとびっくりしたから。
佐藤  一つには、別に何人でも、なんであろうと、選挙で当選したなら、なればいいと思うわけ。だって、逆にチェックするのは国民なわけでしょう。日本国民、例えば日本においては。その国民が選択を間違えさえしなければ、帰化人であろうと、何人であろうと、なるべき人が政治家になるわけじゃん。だから、別にいいんじゃないか。もし、逆にそれでしかるべきでない帰化人とか、いわゆる国内スパイが国会議員になるんであれば、それは、だって国民の選択が誤ってたってことだから、自業自得だよね、まさに。それは国民が不利益を被って、反省して、勉強すればいいんじゃない? 今後の反省に生かせばいいんじゃないですかね。

あと、もう一つは、国益とかっていう基準で考えた場合、ただ単に日本人っていうだけじゃ、むしろ不十分だと思うんですよ、僕は。例えば自分は日本人だといって威張るのであれば、日本のために戦争に行くとか、日本のために税金を払うとか、日本のために働いて自分の生活を維持していくとかっていうことも、当然必要であって、ただ単にお父さん、お母さんが日本人だというだけで、何かしら国に貢献したような気になっているのでは、まったく間違いで、むしろ、逆に、例えば帰化人なり、外国生まれであっても、一定の功績なり、実績を挙げた上で、日本国籍を取って、例えばお相撲さんとかもそうだけど、みんな日本人になるわけじゃん。っていうような人々は、むしろ優秀な実績のある人たちなわけでしょう。
そういう人たちをきちんとその実績を評価したり、能力を買ったりしていくようなシステムでなければ、むしろ国の勢いというか、生産性の方が失われてしまっていくわけじゃん。例えば、それこそ優秀な外国生まれの日本人がたくさん居るのと、純粋な日本人だけども、みんな生活保護の人たちがいっぱい居る日本と、どちらが国として優れているかっていうのは、いうまでもないじゃないですか。そういう意味で、血統とかなんてものは、一定の基準ではあるかもしれないけど、それよりも、むしろその主張とか、行動とか、生きざまとか、そういう内容で判断されるべきであり、そういう意味では、このアヤーンさんの本は非常に参考にすべき。別に日本とは縁もゆかりもない人だけれども、むしろ日本人が、あるいは、愛国者と称する人々が、勉強して参考にすべき本だと思いますので、ぜひ読んでみてください。
のら猫の手  一致しました。そこは一致します。ありがとうございます。なんかもうネット右翼とかが、「何代もさかのぼって帰化人(かどうか)を洗い出して、帰化人かどうかを調査して、帰化人は一切なんとかするな」とかいう言説がすごい多いから、私もさすがにそれ、ちょっと引いてて、怖いなとか思ってたから。
佐藤
 だって、100代前まで日本人でも、今、こじきだったらしょうがない。駄目じゃん。むしろ、逆に僕なんかは、こじきとか、犯罪者とかは、日本国籍を取り上げられてしかるべきだと思うよね。だって、国と社会に迷惑をかけてるやつが日本人を名乗るなってことだよね。そんな資格ないだろう。国を愛するとかいう資格もないよね。まず、国に迷惑をかけるのをやめろ。そこからですよね。


のら猫の手  そこは一致しました。よかった。ありがとうございます。なんか胸が熱くなりました。ありがとうございます。




虚淵玄(うろぶち げん)『Fate/Zero(フェイト/ゼロ)』





佐藤  どういたしまして。では、もう一つ行きますか。もう一つこっちの、今、新進気鋭の作家さん、虚淵玄(うろぶち げん)先生が著した。

虚淵玄(うろぶち げん)
のら猫の手  全然知らない。
佐藤  最近では、『魔法少女まどかマギカ』で勇名をはせた、虚淵先生ですけれども。 『魔法少女まどかマギカ』
のら猫の手  それ、聞いたことある、魔法少女まどか。
佐藤  最近の人だからね。ゼロ年代ぐらいから売り出してる人なので、最近の人なんですけど、この『フェイトゼロ』っていうのは、『フェイトステイナイト』っていうパソコンゲームがありまして、それの前日譚として描かれた、いってみたらスピンオフ小説であり、なおかつ、すべての願いをかなえるという聖杯を巡って、7人の魔術師が7人を召還して、互いにバトルロワイヤルを繰り広げるという、伝記小説、怪奇小説というか、怪奇ファンタジー小説なんですけれども、完全なフィクションなんですよね。完全なフィクションなんですけれども、僕的に非常に面白かったのは、まさに日本における10日間程度の出来事を描いた話なんですけれども、この中に、まさに共産主義運動というか、革命運動の成り立ちと、その誤りと、失敗の原因と、その本質が凝縮して描かれているという意味で、非常に参考になる話なんです。
のら猫の手  この人は共産党の歴史っていうのをすごい勉強してやったんかな。それとも無意識かな。どっちやろ。例えば、立花隆の共産党の歴史っていう本を読んで、それを……。 立花隆『日本共産党の研究』
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佐藤  『日本共産党の研究』とか?
のら猫の手  はい。やったのかな。それとも、無意識で、ひょいとそういうことを書いちゃったのか。
佐藤  別に共産主義に関しては全く書かれていないので、勉強している証拠にはまったくならないんだけども。
のら猫の手  (作者が)無意識でスーっと書いたことが、(佐藤さんにとっては)共産党批判だなっていうふうに感じたの? どっちやろ。
佐藤  つまり、いってみれば暴力革命を、この主人公の、ここに出ている、衛宮切嗣さんっていう人が、聖杯っていう、すべての願いがかなうといわれてる魔法の願望器を手に入れて、その願望器を使うことによって世界平和を実現しようという願望を持ち、この聖杯戦争に参加するんですよね。その中で卑劣な武装闘争を繰り広げていくんだけれども、彼は非常に善意の目的を持って、つまり、世界から戦争をなくす、すべての流血と戦争をなくすために、この聖杯を手に入れて使おうとして、しかし、そのためには、闘争で勝ち残っていかなないと聖杯は手に入らないですよ。なので、この中で極めて熾烈な、あるいは、残虐な暗殺とか殺人を用いて、闘争の相手を排除していくわけ。残りの6人を殺さないといけないでしょう。その中で、切嗣さんは、つまり世界平和という、戦争廃絶っていう理想の目的を実現するために、まさに熾烈な戦争を展開していくというんだけれども、これっていうのは、例えば共産党が主張する暴力革命とか、新左翼もそうだけど、共産主義者が提唱する、いわゆる武装放棄で、権力を倒して、ブルジョアジーを打倒して、権力を奪取して、その上で、搾取も、抑圧も、差別もない、戦争も、税金もない、理想の社会を実現するんだっていう共産主義者の暴力革命論の構造とまったく同じなんですよ。
 しかも、もっといっちゃうと、共産主義だけではなくて、例えばキリスト教の千年王国とか、あるいは、オウム真理教、麻原王国とか、あとは、満州国の建設とか、大東亜共栄圏の創設とか、そういうような、つまり戦争も暴力もない理想の社会を実現するためには、暴力もやむを得ないんだって、そういう暴力革命運動のひな型というか、パターンが、その要素が凝縮されて、抽出して、取り出されて、この『フェイトゼロ』っていう物語の中で展開されてるんですよ。
 従って、暴力革命がなぜ失敗していくのかっていう過程も、まさに忠実に描かれていくっていう。もちろんフィクションなんだけれども、表現されていくんですよ。まさにこのとおりだっていうことなんかも、自分のわずかな原点からいっても、つまり、なぜかっていうと、さっきもちらっと話したけど、つまり世界平和とか、戦争の廃絶を実現するために、戦争で革命を起こして勝つんだっていって、人々、あるいは、党が革命文をつくり、戦争をやり、革命戦争に勝利していくわけでしょう。その過程で、戦争とか殺人に慣れていくわけですよ。習熟していくわけ。革命を起こすためには戦争で勝たなきゃいけないということで戦争をやっていくんだけども、そのうち皆さん、戦争のプロになってっていうか、戦争主義者になっていくわけですよ、やっていくと。その人たちが革命を起こして、政権を取ったときに、平和になるかっていったら、ならないんですよ。なぜかっていうと、その人たちが戦争主義者だから。
のら猫の手  「もう戦争のない平和な時代には戻れない」みたいな?
佐藤  そうだよね、ぶっちゃけ。
 つまり、例えばロシア革命とかもそうで、ロマノフ王朝とかが第一次世界大戦とかにのめり込んでいくわけですよね。ロシアの国民がみんな戦争の犠牲になっていくことに対して、ロシアの共産党、ボリシェビキ、メンシェビキの人たち、拡大勢力の人たちが、ロマノフ王朝を打倒して、戦争をやめさせようっていうような理想を掲げて、ロシア革命を起こして、権力を握るわけですよね。ところが、それに対して、共産主義革命に対して、それに反抗して、王党派とかが反抗したり、さらには、アナキストとかが、ボリシェビキとか、共産主義に対して、そのやり方は違っているといって反抗して、放棄したりするんですよね。
そうすると、共産党はどうするかっていうと、取りあえず殺しちまえ、皆殺しだ、ぶっ殺せ。つまり、革命運動の過程でやってきた手法は、革命後もとってしまうんですよ。同じことをしてしまうわけですよ。そして、結局革命前は、戦争で犠牲者が出て、流血が出て、死人が出て、悲惨な戦争を食い止めようといって革命を起こしたのが、革命後は、その革命を守るために、戦争が起き、殺人が起き、流血が起き、敵対勢力の皆殺しが起き、しかも、なお悪いことに、革命という理想とか、正義を守るためなので、この戦争は正義の戦争なんだといって執行してしまうんで、かえって歯止めなく、際限なく、限度なく、どんな残酷な、残忍な措置も正当化されてしまうので、かえって、それこそ北朝鮮じゃないけれども、共産主義革命が起こった後で、強制収容所がつくられ、粛清が起きて、かえってひどいことが起きてしまうっていうのが、今までの人類の歴史の現実だったわけですよね、フランス革命しかり。
フランス革命ですら、あれは共産主義革命じゃないけど、フランス革命の後で大量虐殺が起きて、ギロチンが出てきて、革命の中でも内部抗争が起こって、内ゲバが起こって、とにかくみんなギロチンにかけられてって歴史があったわけじゃないですか。そういう、まさに暴力革命がどんな理想を掲げようと、暴力革命が何を生み出していくかっていう。

「暴力革命はしょせん暴力に帰結していく」という歴史の真実をそのまま抽出して、10日間の出来事として描いた、『フェイトゼロ』っていう物語ですけど、非常に勉強になりましたね。これもまた、ためになりますね、本当に。それで、ことしのお薦め本ですね、私の。
のら猫の手  この人は、作者さんが別に、立花隆の共産党の批判の本とか、共産党の歴史とかを勉強した上で書いたのか、それとも、無意識なのかは、まだちょっとよく分からないみたいな?
佐藤  たぶん無意識なんだと思うね。この人の他の本とかも何冊か読んだんだけど、基本的に、この人はエロゲームの、パソコンの18禁ゲームの脚本をつくる仕事をしてる人で、他には特に何もしてないっていうか、別に政治的な発言とか、政治的な著書とかを著している形跡はまったくないんですよ、おれも知らないだけなのかもしれないけど。ただ、彼がつくるいろんな脚本なり物語をいくつか読んでくと、人間の歴史とか、生命とか、あるいは、暴力とかっていう問題について、エロというのが、また人間の性と欲望のあり方であり、なおかつ、そう考えていく上で、暴力の問題というのも、特に考えていかなければいけないものだったりするので、たぶん突き詰めて考えていくと、そういうことになる。
 でも、それは現実的には可能だと思うんだよね。つまり、今にして思えば、まさにそうだけど、共産主義革命運動が失敗に終わっていく過程とかっていうのは、別に共産主義イデオロギーとかに問題があって、そうなるというものでもなくて、むしろ、人間が暴力で権力を奪取していくとかっていう、むしろ普遍的な、共産主義が発生する以前から、大昔から、キリスト生誕以前とか、そのころからずっと展開してきた人間の営みの中の普遍的なあり方でしかない。例えば、レーニンなどが『帝国主義論』などを書いて、闘争にイデオロギー的な味付けをしたんだけれども、そのようなものは本質的なものではない。無関係だ。なのに、人間の行う暴力とか、戦争とかっていうものの、原因と結果とか、始まりと終わり的なものっていうのは、むしろ似たり寄ったりであり、同じなんだということが分かるわけで、まさにイデオロギーなどというのは、実はあまり関係ないというか、意味がないっていうことが描かれてるかな。
 だから、別に共産主義の話は一切ここに出てこなくて、魔法戦争かな、もっといっちゃえば。だから、現実の共産主義革命のありようとは別に全然重ならないんだけど、にもかかわらず、帰結というか、成り行きが、ほぼ似てしまうっていうか。
のら猫の手  「作者さんは無意識で書いたことが、共産党の歴史と重なる」っていうふうに、佐藤さんが解釈なさったんですね。
佐藤  僕は、そうね。僕は、左翼経験者であり、革命運動経験者なので、同じだと思って、感想を持って、これ僕の個人的な。
のら猫の手  暴力革命じゃない革命って、どうやってできるとか、分かります? 無血革命とか、平和に穏便な革命とか。そういうの書いた人、いまだに居ないですね。
佐藤  例えばAKB48とか、あるいは、スティーブ・ジョブズとかが、アイフォンをつくって、人々が便利だと思って飛び付いて、それによって人々の生活が変わっていく。あるいは、IT革命とか、情報化の進展によって、例えばベルリンの壁が崩壊していくみたいな、っていうようなことは、なくはないよね。ただ、それはなかなか実際に難しいわけじゃない? 本当に人々の生活を一変するような、有意義な価値を生み出すっていうことだから、それはなかなか誰にでもできることではないので、それこそ左翼だの何だのが徒党を組んで暴れたからといって、そんな良いことが起きるなどということはないですね。
のら猫の手  でも、佐藤さん、「北朝鮮と一戦交えて、北朝鮮の強制収容所体制をつぶすんだ」とかいうけど、それに成功すれば、その後に今度は日本が、粛清、粛清、粛清、戦争、戦争、戦争とか、そういう恐怖の戦争ファシズム国家にならないかなとか、ギロチン国家にならないかなとか、そんな心配ないですか。
佐藤  いいね。
のら猫の手  いいんですか。
佐藤  のら猫さんの突っ込みはいつも厳しいね。なんでだろうな。無意識だからかな。
のら猫の手  なんで? だって、「北朝鮮解放したぞ」いうて、それから、「よし、これからは戦争だ」とかいうて、戦争の軍人たちとかが平和な時代に適応できなくなって、「これからももっと戦争だ」って、延々と戦争を続けるような社会にならないですか。
佐藤  当然あり得る。もっといっちゃえば、例えば戦争なら、戦争なので、例えば虐殺とか、略奪とか、強姦とか、戦前の戦争では問題になったような、悪徳っていうんですか、あるいは、日本の国内においてもファシズムとか、言論の自由の抑圧とか、不当弾圧とか、反戦派に対する弾圧があるっていうことは、当然予想されるね。だから、問題は、そういうコストをかけただけのメリットがあるかどうかだね。僕的には、そういうデメリットコストを換算しても、メリットのほうが大きいと判断するので、戦争をあおってるわけ。
のら猫の手  そこらへんちょっと微妙ですけどね、本当に。
佐藤  いい突っ込みだね。
のら猫の手  だから、そこらへんが複雑ですね、はっきりいって。
佐藤  ただ、つまりコストとメリット・デメリットとか、コストと利益っていうのは、商売でも大体そうだけど、どんだけもうかるかっていうのが基準になるわけじゃん。政治闘争でも、あるいは、北朝鮮解放戦争でも、かけたコスト、もちろん人が死ぬとか、あるいは、政治が乱れるとか、人権侵害が起こるっていうのは、当然全部コストなわけで、そのコストと合わせた上で、なおかつ、北朝鮮が継続する場合のデメリット、虐殺なり、人権侵害なりっていうのは、量を単純に比較して、たぶん北朝鮮と戦争して、キム・ジョンイル体制を打倒するほうが、圧倒的に得だなということが分かる。それは何かっていうと、つまり、それだけ北朝鮮の体制がデメリットが大きいっていうことですね。
のら猫の手  その後に、例えば戦争を起こして、その後、軍人さんたちが社会的に暴走しないような、歯止めをするためのシステムっていうのは考えられてます?
佐藤  特に考えてないけど。
のら猫の手  考えてないんだ。
佐藤  特に考えてないのは、つまり、軍人さんたちが暴走するのは、それだけの負担を強いられるというか、自分たちのやってる戦争に意義が感じられなかったり、無理やりだったりすると、かえって軍人さんたちが反発して、いろいろ素行が悪くなったりとか、そういうことがあり得るんだけども、例えばベトナム戦争とか、そうじゃない? そうだけど、北朝鮮の場合は、キム・ジョンイル体制、特に悪いんで、そういうことにはならんだろう。例えばベトナム戦争とかの場合は、結局アメリカが負けたわけだし、なおかつ、負けて帰っていくと、みんなベトナムで悪いことした、人殺しだとかいって、責められるわけじゃん。つまり、それだけアメリカとベトナムの戦いが、ベトナムにおいてアメリカが戦争をする意義というものが提出できなかったわけじゃん。でも、北朝鮮における戦争の場合は全然大丈夫だと思うんだよね。
のら猫の手  どうやろな、それは。
佐藤  だんだん不安になってきた?
のら猫の手  不安になってきた。
佐藤  全然大丈夫だと思うけど。
のら猫の手  佐藤さん、まだそこらへんは自信ない? 「大丈夫だ」と胸を張れない?
佐藤  たぶん大丈夫だと思うけどね。
のら猫の手  どうなんやろ。その不安があるから、だから、どうしてもちょとなみたいなところ、ありますね。もし有能な方が作家になって、戦後の軍人のリハビリと社会復帰のなんとかっていうような感動物語、書かれたら、それで洗脳されて、オーケー出すかもしれませんけど、今現在では不安やから、まだそこまでは説得されませんね、本当に。
佐藤  そんなに面倒じゃないと思うけどな。
のら猫の手  でも、誰か有能な作家さんが、そんなプロバガンダな小説書いたら、私も、そうか、戦争起こしても大丈夫かとか思っちゃうかも分かりません。
佐藤  大丈夫だと思うんだけど。もちろんひどいことはいっぱい起こると思うけどね。ただ、問題は、そのひどいことが、今北朝鮮で起きてるひどいことと比べて、ひどいか、ひどくないかっていうことだね。だって、ぶっちゃけ北朝鮮で起きてることは、実際にそうだからね。ただし、死ぬのは一般市民のみっていう戦争が今でも続いてるわけですよ。人々が被害をこうむるという意味では、戦争と同じなんだけれども、軍人さんやら、政治家さんやら、北朝鮮の、が一切被害をこうむらないという意味では、戦争とは同じではない。むしろ平和的な状態だね。だから、おいらにいわせれば、むしろ平和より悪い状態だよね。
例えば、それこそイラク戦争みたいな、イラクで戦争が起きたら、例えばフセインとかが捕まって殺されたりするわけじゃん。だってフセインとかっていうのは、イラクの最高指導者で、独裁者で、最高権力者で、それまで栄華を誇っていたわけじゃん、好き勝手に国民を殺しまくって。でも、自分は絶対に殺されないって、安全だったわけじゃん。それが平和な状態だったわけですよ。それに対して、戦争が起これば、そういう上のほうに居る人たちも安全ではなくなって、果ては殺されてしまうっていう状態になるという意味では、戦争状態になったほうが、イラクでも、北朝鮮でも、公正で、平等で、格差がない状態になるんですよ。
今の平和っていうのは、逆にいっちゃえば、異常な格差状態なんですよね。北朝鮮の一般市民がいつ死ぬか分からない。いつ殺されるか分からない。いつも死んでいる。でも、北朝鮮の上部階級、支配層とか、あるいは、日本人とか、韓国人とかは全然死んでないとか、そういう状態なわけで。

きょう持ってきてないけど、今、本を2冊お薦めしたんですけれども、最近見た映画で非常に素晴らしかったものを1つ付け加えておくと、在日朝鮮人の女性でヤンさんっていう人が居て、この人が監督した、『かぞくのくに』っていう映画が最近上映されていて、映画館で見たんですけど、この映画が非常に素晴らしい映画だったので、これも合わせてお薦めしておきます。
主演が井浦新さん、あと、安藤サクラさんと、日本で売り出し中の新進気鋭の若手俳優さんたちがメインになっていて、テーマは在日朝鮮人の家族と、その中で、帰国事業で北朝鮮に移住して住んでいた兄が何十年ぶりかに日本に戻ってきて、家族と再会して、また北朝鮮に戻っていくという映画なんですけれども、日本で起きた出来事、ヤン監督の自伝的な話で、家族に起きたことが、ほとんどそのまま映画化してるだけらしいんですけれども、日本で起きたこと、舞台が日本で、主に日本で描かれてるんだけども、これは北朝鮮という国のありかたを非常に的確に描写している、北朝鮮の国のことがよく分かる映画になってるんですよね。北朝鮮の内部はまったく描かれてないというか、映ってないんだけれども、日本が舞台ですから、日本だけ映ってるんだけど、北朝鮮のことがよく分かる映画なんですよね。
これを見ると、在日朝鮮人にとっての最も大きな最悪っていうのは、北朝鮮のキム・ジョンイル体制の存在なんだっていうことがよく分かる映画で、非常にいい映画なので、皆さん、ぜひご覧になっていただきたい。
映画『かぞくのくに』
公式サイト

ヤン ヨンヒ『兄~かぞくのくに』 [単行本]
→AMAZON
のら猫の手  それ、DVDになってます?
佐藤  いや、まだなってないと思うよ、今映画館でやってるから。
のら猫の手  DVD化されたら、家で気軽に見るか、そのほうがいいな。映画館まで見にいくのは、時間が取れないから、DVD化されてから見にいこうかな。
佐藤  DVDでなくても、なんでも見ていただけると、さらに面白いかと思います。
のら猫の手  分かりました。
佐藤  カルチャー紹介でした。
のら猫の手  私は佐藤さんとは考えが合わないところとか、違うところがあるんですけど、それでも話を聞くべきなんですよ、本当に。自分と全然違う考えの方でも、一分の理はあるんですよ。自分と考えの違う方を排除したら、本当に自分の欠点が分からなくなっちゃうんです。本当に自分の欠点が浮かび上がってきたし、本当にきょうはどうもありがとうございました。
佐藤  どういたしまして。
のら猫の手  本当にありがとうございました。
佐藤  またよろしくお願いします。


(録音終了)